東京高等裁判所 平成元年(行ケ)118号 判決
一 請求の原因一、二の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。
1 本願商標と引用商標のそれぞれの構成、指定商品及び登録出願日並びに引用商標の登録日が本件審決認定のとおりであること、本願商標の図形部分は「クローバー」であること、「クローバー」が「シロツメクサ」の別称であること、引用商標から「クロバー」又は「クローバー」の称呼、観念(シロツメクサ)を生じることは、原告の認めるところである。
2 原告は、本願商標からは「クローバー」の称呼、「シロツメクサ」の観念を生じないのに、これを生じるとした本件審決の認定が誤りであるとし、その理由として、本願商標の図形部分は本願商標にあつては付飾的な存在にすぎない旨主張する。
本願商標を表示したものであることが当事者間に争いのない別紙(1)によれば、本願商標は図形と文字の組合せよりなること、図形部分の構成は被告主張の図形構成のとおりであること、図形部分の四つ葉部分は文字部分の一文字の大きさよりも大きく構成され、四つ葉部分を左にし、その長い葉柄でもつて文字部分「HANSHIN」を下から支えるように配置されていることが認められ、右図形部分が「クローバー」であることを原告が認めていることは、前示のとおりである。
右認定事実によれば、本願商標の図形部分は四つ葉のクローバーであることが明瞭に認められるのであり、本願商標の文字部分が、「HANSHIN」を横書きしたもので、原告指摘のように判読容易でかつ親しみ易いローマ字でもつて顕著に大書されていることが前掲別紙(1)により認められる点を考慮しても、右図形部分が本願商標にあつては原告のいう付飾的なものであるとは到底いうことができない。
したがつて、図形部分は本願商標にあつては付飾的な存在にすぎない旨の原告の主張は採用できない。
3 また、原告は、本願商標の文字部分「HANSHIN」又はこれと称呼、観念を同じくする「阪神」の商標が、「糸」その他の取扱い商品について原告の商標として本願出願当時著名であつたので、本願商標からは、「クローバー」の称呼、「シロツメクサ」の観念を生じない旨主張する。
しかし、原告の主張自体からも「HANSHIN」の商標が、本願出願当時指定商品「糸」その他の取扱い商品について原告の商標として著名であつたとはいうことができないうえ、証拠上もこれを認めるに足りるものはない。そうとすると、原告の主張は、本願商標の文字部分「HANSHIN」と称呼、観念を同じくする商標「阪神」につき原告の商標として指定商品「糸」その他の取扱い商品について著名であつたことを理由として、本願商標からは「クローバー」の称呼、「シロツメクサ」の観念を生じないと主張することに帰する。しかし、仮に、右の点が原告主張のとおりであつたとしても、そのことをもつて直ちに、本願商標のうち文字部分のみが要部であり、図形部分は独立して要部とは認められず、したがつて本願商標からは「クローバー」の称呼、「シロツメクサ」の観念を生じないということはできない。したがつて、原告の前記主張は採用できない。
4 してみれば、本件審決には原告主張のような事実誤認はなく、原告の本件審決を取り消すべき事由は採用できない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却する。
〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五三年八月八日、別紙(1)のとおりの商標(以下、「本願商標」という。)について、指定商品を第一五類「糸」として商標登録出願(昭和五三年商標登録願第五九一三二号)をしたが、昭和五六年一二月二五日拒絶査定を受けたので、昭和五七年二月二四日これに対し審判を請求した。特許庁は、同請求を同庁同年審判第三九二〇号として審理したうえ、平成元年三月二三日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年五月一五日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
1 本願商標の構成、指定商品及び商標登録出願日は、前項記載のとおりである。
2 これに対し、当審において、新たに本願商標の拒絶の理由に引用した登録第一五四四七五五号商標(以下、「引用商標」という。)は、別紙(2)に表示したとおりの構成よりなり、第一五類「糸(縫合糸、釣り糸及び脱脂屑糸を除く)」を指定商品として、昭和五〇年一〇月三日登録出願、同五七年一〇月二七日登録されたものである。
3 そこで、本願商標と引用商標との類否について判断するに、本願商標は、その構成は別紙(1)に表示したとおりの図形と文字の組合せよりなるが、これらの構成要素は、表現方法を異にするばかりでなく、相互に関連性も見いだしえないものであるから、各構成要素が独立して自他商品の識別機能を営みうるものといえる。
しかして、構成中の図形部分は、長い葉柄の一端に四枚の葉(各葉形は、中央部に一本の葉脈と葉尖部に切込をもつ)を有する植物を描いてなり、かかる表現形態を観るに、看者をして、日常一般に親しまれている四つ葉の植物、シロツメクサの別称「クローバー」を端的にシンボライズしてなるものと容易に認識せしめるのを相当とする。
してみれば、本願商標は、該図形部分より生ずる「クローバー」の称呼、「シロツメクサ」の観念をもつて取引にあたる場合も決して少なくないものといわなければならない。
4 他方、引用商標は、構成は別紙(2)に表示したとおり、本願商標のそれとは、やや趣を異にするが、その形態が、一般に馴れ親しまれている三つ葉の植物にして、しかも、同一の範ちゆうに属しているとみられる「クローバー」(シロツメクサの別称)を簡略化した図形と併せ、「クロバー」「Clover」の各文字を書してなるから、これらの文字に相応して「クロバー」の称呼及び観念(シロツメクサ)を生ずるほか、該図形部分より「クローバー」(シロツメクサ)の称呼、観念をも生ずると認めるのを相当とする。
5 そうとすれば、本願商標の図形部分より生ずる「クローバー」(シロツメクサ)の称呼、観念と、引用商標の図形部分から生ずる「クローバー」の称呼と観念(シロツメクサ)とは、同一のものと認められる。次いで、本願商標の図形部分より生ずる「クローバー」の称呼と、引用商標の文字部分より生ずる「クロバー」の称呼とを対比するに、両称呼は、称呼の識別上重要な要素を占める語頭の「ク」をはじめ、語尾部の「バー」の各音を同じくし、第二音目の「ロ」の音に随伴する長音が有るか否かの差異を有するにすぎないものであるから、その全体をそれぞれ一連に称呼するときは、語調・語感が近似し、その称呼においても彼此相紛れるおそれのあるものと判断するのが相当である。
6 したがつて、本願商標と引用商標とは、称呼及び観念において類似する商標であり、かつ、両者の指定商品も同一のものであるから、結局、本願商標は、商標法四条一項一一号に該当し、登録をすることができない。
〔編注2〕本体における別紙は左のとおりである。
別紙
(1)本願商標
<省略>
(2)引用登録商標
<省略>